Mr.CHEESECAKEの事例紹介

2018年4月から販売をスタートした、Mr.CHEESECAKE。日曜・月曜10時の予約販売では、毎回30分以内に売り切れる。ここでは、そんな幻のチーズケーキとして知られるMr.CHEESECAKEの巧みなコミュニケーションデザインを紐解いていきます。

Mr.CHEESECAKEとは

Mr.CHEESECAKE(ミスターチーズケーキ)についてよく知らないという方もいると思うので、まずは簡単な紹介から。

ブランドの生みの親となるのは、田村浩二氏。ミシュラン星付きフレンチでシェフとして腕を振るった経験もある料理人です。現在はMr.CHEESECAKEのほかにも、複数の事業を手掛け、経営者として多方面で活躍しています。

Mr.CHEESECAKEのはじまりは、Instagramでの投稿。当時シェフとして活躍していた田村氏が、自作のチーズケーキをストーリーズに投稿したことがきっかけでした。ブランドコンセプトは、「世界一じゃなく、あなたの人生最高に。」現在はオンラインでのみの販売で、常温では簡単にくずれてしまう柔らかさから、冷凍して配送されます。「冷凍・半解凍・全解凍」の3段階で風味が変わり、口の中に入れるとすぐとろけてしまうような食感とトンカ豆の独特の香りが印象的。口コミでも絶賛の声が相次ぎ、いまでは入手するのもひと苦労…。SNSの公式アカウントのフォロワー数は、Twitterで約4万人、Instagramでは約13.5万人(2021年5月現在)に。感度の高い方々を中心に人気を博しています。

流行までの軌跡

一人のシェフが生み出したブランドは、どのようにしてここまでの人気を獲得したのか。早速見ていきましょう。

mrcheesecake_timeline_phase_1

<フェーズ1> は、Instagramに自作チーズケーキを投稿したところからスタート。インフルエンサーのMr. CHEESECAKEに関する投稿が拡散されたり、シェフのレシピ投稿ツイートがバズったりと、徐々にフォロワーを増やしていきました。インフルエンサーとの出会いは偶発的な部分もあったかもしれません。ですが、田村さんはシェフの時代から「自分が料理していることを知ってもらいたい。もっと有名になりたい。そのためには自分で発信するしかない」と、facebookやInstagramでの投稿をつづけていました。Mr. CHEESECAKEを始める少し前にはTwitterも開設し、一般の方々に向けて料理のコツなどをツイートするように。同時期に、noteもスタート。当時、料理人でnoteを活用している人は少なく、新規登録者向けのリコメンドにも選ばれていました。多様なSNSを通じて続けてきた地道な発信が、のちに実を結んだとも言えるかもしれません。

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<フェーズ2> は、さらなる認知拡大の段階です。流行の真っ只中にありながら、チーズケーキのレシピを公開。一見リスキーにも思えますが、この選択ができたのは、シェフとしての技術に揺るぎない自信があったからこそ。実際、レシピ公開後も売り上げに変化はなく、むしろさらなる興味喚起につながったようです。クラウドファンディングも話題を呼び、その結果は、希望金額の1100%超。新しい層と出会うきっかけにもつながりました。

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そして販売スタートから1年以上が経過したところで、公式販売サイトを開設。プレスリリースが投稿されると、多数の媒体に取りあげられました。各媒体で書かれている記事の内容はさまざまで、シェフの経歴や開発までのストーリー、ほかにも飲食業界に関するシェフの考え方や構想など、多数の切り口を持っていることがわかります。こうしたシェフ自身の考え方や価値観がコンテンツとなり、新たなファン層の獲得にもつながっています。セブン-イレブンとのコラボ商品開発なども、顧客層の拡大を目的とした取り組みのひとつですね。

購入者視点でのコミュニケーション設計

SNSや各種媒体での発信によって、徐々に有名になったMr.CHEESECAKEですが、ただ発信を増やせばいい、というわけではありません。フォロワー数の増加やファンの獲得のために、どんな仕組みがあるのか。それを紐解くために、購入者目線でのブランド認識から購入・リピートまでの流れを見ていきましょう。

mrcheesecake_touchpoint

Mr.CHEESECAKEで注目すべきは、UGCを加速させるための仕組みづくり。もちろん、すでに有名、かつ希少性が確立されているため、ユーザー側の投稿意欲がすでにできている部分もありますが、下記の3つのポイントは他社でも参考にできるかと思います。

◎Instagramハッシュタグの統一

定期的に「本日は、#mrcheesecake で投稿いただいた写真の紹介です」とポスト。これにより、ハッシュタグは#mrcheesecakeとすることが望ましいことを示し、投稿時にユーザーを迷わせず、かつ分散化を防ぐことができます。

◎写真の世界観を統一

オウンドメディアで撮影のコツや「美しい」と「おいしそう」を両立させるフードスタイリングを紹介。ユーザーが投稿する写真にまでも、ブランドイメージ(世界観)を広めています。撮影・投稿意欲の向上にもつながりそうですね。

◎メディアキットの配布

メディアやSNS等で Mr.CHEESECAKEについて紹介するときに便利なデータを用意。ブランドやシェフの紹介文、ロゴやキービジュアルなど、そのまま使用できる素材を公式に配布しています。ウェブメディアや個人のインフルエンサー・ブロガーの負担を軽減することで、投稿への心理的な障壁を下げる働きになっています。

そのほかにも、感度の高いユーザーが好むような、HP・パッケージ等の洗練されたデザインも投稿意欲の向上につながっていると推測されます。

また、Mr.CHEESECAKEは、購入者がチーズケーキを食べるまでに過ごす時間を、レストランで食事を楽しむかのように設計されています。たとえば、解凍の度合いによって味わいや風味が変わることで、レストランのように待っている間もワクワクできたり。シェフが料理を勧めてくれるようなイメージで、チーズケーキを味わう前に聞いてもらう音声を発信したり。チーズケーキとのペアリングを考えられたドリンクのレシピをオウンドメディアで紹介したり。商品を食べる瞬間だけでなく、商品が届くまでの時間、解凍を待つ時間をもデザインする。購入した人たちが、チーズケーキとともにどんなひとときを過ごすのかを考える。こういった消費者視点が、コミュニケーション設計のベースになっています。

SNSプロモーションにおけるポイントをピックアップすると、下記の通りでしょうか。

・ユーザーが投稿しやすい環境づくり(ハッシュタグの統一、メディアキットの配布など)

・拡散力のあるユーザーを惹きつける洗練されたデザイン

・多様な媒体での発信と、さまざまな切り口 など

そのほかのポイントとしては、

・シェフがもともと持っていた知名度

・おいしさ、味へのこだわり

・手に入りづらいことによるプレミア感 など

簡単に真似できる点ばかりではありませんが、メディアキットの配布や消費者視点でのコミュニケーション設計は試しやすいところかもしれません。

最後に

もし、Mr.CHEESECAKEがいま同様の戦略を実施した場合、流行をつくりだすことはできるのでしょうか。ブランド創設の2018年は、チーズケーキブームが起きていた頃。時代との相乗効果も、人気の要因としてあったと思います。ですが、やはり、この巧みなコミュニケーション設計が流行を創出するベースとなっていることはたしかです。

Mr.CHEESECAKEは、シェフの知名度や味のみで成功したブランドではありません。SNSや数字、デザイン…、さまざまな要素を検討し、ブランディングしたからこそ、現在のポジションを確立することができたのです。

いま、もしくは今後、D2Cブランドをつくる場合、プロダクトの質を高めることはもちろんですが、デジタルでのコミュニケーション設計をどう構築するかを深く検討する必要があります。

田村シェフの場合は、ご自身がもともと数字に強かったこともあり、一人で二役、三役を担われていますが、デジタルマーケティングに長けた仲間もいるようです。適切なコミュニケーションをデザインするには、互いを補い合えるパートナーを見つけることが大切なのかもしれませんね。

また、Mr.CHEESECAKEのようなヒット商品の生み出し方を学べる場所を、田村さんにつくってもらいたいですね。経営視点やデザイン視点、SNSを活用したコミュニケーション設計など、幅広く知識を得られる場所…。私もぜひ参加したいです。(PROFITライター さといも)

ブランディングや商品開発を手がける株式会社ザッツ・オールライトが運営するWEBマガジン「PROFIT」。ブランディングの観点から世の中の事例を紐解いたり、SNS運用のTipsを配信して、SNS担当のみなさんに役立つ情報をお届けします。ふとしたときに、週のまんなかに、どうぞご覧ください。
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